洗面台の鏡に写った私はとてもきれいで。
50を過ぎた女とは思えない。
前髪を下ろしたら、ほら50代にはとても見えない。
愛らしい顔。
10代の頃とさほど変わっていない顔。
肌は白くてなめらかで、肌診断のアプリではキメとシミ(なし)の評価が100点満点中97点。
50代の女性で、ここまでキメが細かくて白い人はまずいないだろう。
もともと色白で、学生時代はそれがコンプレックスでもあった。
今はそれに輪をかけて、スキンケアに励んでいる。
スキンケアが趣味である。
スキンケアは私のマインドフルネスとなっている。
私こんなにきれいよ。50代には見えないほどよ。
早朝ゴミを出す時、近所の主婦らしき女性を見た。
50代くらい。
分別を知った大人の女性の横顔をしていた。
子供を産んで育て、そこにはきっと家庭というものがあるのだろうと想像させる、思慮深そうな女性であった。
私と同年代。
充実した月日を重ねてきた年輪が顔に現れていた。
小さくて、足元もおぼつかなくてヒョロヒョロした私。
女性は歳月の年輪をしっかり重ねて、ちゃんと50代の顔をしている。
クラっとした。
この充実して落ち着いた、主婦に見える女性にハッとした。
この人に比べて、私はなんだろう。
何も経験を持っていなくて、これからもどう歳を取って行けばいいのか、わからない私に比べてどうだろう。
この人の落ち着き。安定感。
きちんと歳を取ったおばさんの顔をしている。
置いて行かれた。
私の心は10代のままだ。
記憶と存在はそのままに。
私と同年代の女性たちは、私が若く見えて、羨ましいと思うだろうか。
口ではそう言っても実際にそう思うだろうか。
私はまだ誰も足跡をつけていない大地の雪のようにまっさらだ。