先生の目を見て話すことは出来ない。
私は頭を下げて、病院に来れなくなった理由を話した。
わざわざ来て話す必要もなかった。病院に来ないで通院をやめてしまうことも出来た。
ただ誠意を持って、私に関わってくれたこの先生にはきちんと伝えておこうと思った。
入院中看護師に、皆が私の顔が変わったと噂していると聞いたこと。(この件は入院中にも先生に伝えてあった)
そのことが一番キツかったこと。
前回会った若い医師に、看護師に顔が変わったと言われたから来れない、と話してあったにも拘らず、二回目に会った時にも、なんで来れないんですか?!と言われたこと。
私が話している間、先生はこちらを見て、真剣に話を聞いてくれた。
「ごめんね!」
「教訓にするからね!」
熱血漢で誠実な先生は、そんな言葉をかけてくれた。
私は、○○さん(看護師)にはよく話を聞いてもらっていたんです。と言った。
先生は大きく頷いた。
「だからよけい言えなかった」
先生はショックを受けた顔をした。
「心配してるんだ!」
「○○さんが?」
「だけじゃなくみんな!」
そんなこともないだろうと思った。
話し終えると、
「緊張したー」
と息をついた。
先生は私の顔を覗き混んで、
「これからもこうやって一個一個言っていくんだよ。聞かない方がおかしいんだからね!」
そう言う先生の顔は必死で、私は胸を打たれた。
また(東京の)○○先生の所に戻りたいんですが。
いいですよ、先生は言い、私は礼を言って立ち上がった。
もごもごと、暑いので先生お体気をつけて、と言うと、
それはご丁寧に。
と先生も立ち上がった。
自分の体が無意識に、先生から逃げるのを感じた。
私はこの病院をこんなに生理的に嫌っているのだ、と思った。
半ば逃げるように診察室を後にした。
売店もあるこの病院に来る時には、いつものんびりしてから帰ることが多いのに、受け付けで診療費を払うと、すぐ外に出た。
十年近く通った病院だが、それ以来一度も行くことはなかった。