夏の日のタオルケット。
夏の日の午睡。
水羊羹。
蝉時雨。
重たい葉を揺する樹木。
木陰。
さんざめく蝉の大合唱に包まれて。
カーテンを抜ける風。
夕立、降らないかな。
退院してから、豆人間になった。
筆まめ、まめな人。のマメではない。
煮豆、小豆、大豆、の豆である。
入院前は豆類が好きではなかった。
納豆と豆腐をたまに。
味噌汁は好きだが、自分ではあまり作らない。
インスタントの味噌汁なら、けっこう飲む。
という程度。
子供の頃から和菓子は好きではなく、和菓子には必ず入っているあんこは大の苦手。
豆類、芋、かぼちゃ、といった昔から女子が好むような、ねっとりして、舌にざらっと残るものは、私の食感的によろしくない。
ましてや、それに砂糖が加わり、甘ったるくしたものなんて。豆が甘いなんて!
欧米人の、照り焼き。
なんで肉が甘いんだ!ぐらい理解出来ない。
体にやさしいのは、わかっているけれど、体が欲っさない。
ねっとりして甘ったるくてざらざらして。
どこが美味しいんだろう。
昔昔から、日本人が好み、受け継いできたあんこの良さがわからない。
私は日本人なのだろうか。
チョコレートが好きで、いつも食べていたが、もし私が、まだチョコレートが存在しなかった頃の日本人だったら。
私はあんこ好きになっていたのだろうか。
よく、こんな問いかけを自分にしていた。
入院中、朝食に納豆が出ることが、ちょいちょいあった。
納豆なら食べられるが、家ではあまり食べない。
しかも、朝から納豆なんて。
私は、朝はパン派なのだ。
なぜ、寝起きに納豆……
朝、起きるのが苦手で、さぁ、コーヒーでも飲もう!と思って、やっと起き上がるのに、病院では朝、納豆が待っているのだ。
朝からテンションが下がる⤵⤵⤵
しかし。
何度か朝食が納豆、ということが続くと。
不思議なことに体が、朝、納豆。ということに馴染んでいくのである。
むしろ、朝、納豆。が美味しい。
納豆が朝出ることが、楽しみにすらなってきた。
そんな入院生活を送って、1ヶ月半。
退院して気付く。
豆が食べたい。
え?私が?
そして、近所のスーパーで「おはぎ」を買ってきた。
手作りらしく大きめで、もっちりして、紫がかった美しい餡は、潰された小豆すら、いとおしい。
そして、ゆっくり、口にする。
餡は口の中で、すうっとほどけ、さらさらと溶けてゆく。
私はうっとりした。
なんだろう。この肩口から身体中に美味しさが染み込んでゆく感じは。
この至福感は期待以上だ。
あぁ、なんで私は今まで、こんな美しい小豆の美味しさに気付かなかったのだろう。
しばしの至福の時を味わって、私はやっと、やっぱり私も日本人なんだなぁ、としみじみ思った。
今まで、こんな美味しいものがあることに気付きもせず、見向きもしなかったなんて……
あぁ、美味しい。
そして今や、我が家には、あんこが欠かせず、冷凍庫に鯛焼き、冷蔵庫に水羊羹。がスタンバイ中である。
あんこ万歳。
しばらくぶりのブログである。
ここ数年タブレットを見続け、すっかり目を傷めてしまった。
画面を見ていると、目がチカチカする。とてもつらい。
ブログとも縁遠くなってしまった。
うちにはテレビがないので、タブレットをテレビ代わりにしていたのも大きい。
年末に眼科に行ったら、目は良くならないとのこと。
目だけは良かったのに、ショックである。
今、目に良いと謳っているサプリを飲んだりしているが、眼科で良くならないと言うのだから、きっと良くはならないのだろう。
しばらくタブレット自体を休むべきなのだろうが、やはりテレビがない生活はきつい。
ニュース番組だけはつけてしまう。
最近はタブレットの画面をノートで隠して音声だけ聞いたりしているが、興味深いニュースだと、思わずノートを外して画面に見入ってしまう。
こんな生活がいつまで続くのか。
テレビはしばらく買えそうにない。
ネットはやりたい。
そこで、ブルーライトをカットするシートをやっと買ってきた。
外に出ることがままならない状態だったので、やっと電器店に行って、手に入れた。
念願のブルーライトカットフィルム。
張り付けがまた大変そうである。
今から貼っても、もう目には間に合わない。ブルーライトカット率も完璧ではないだろう。
だいたいスマホやパソコン自体、目に悪いものなのだ。
悪くした目は良くなることはないだろう。
が、私はやはりブログを続けたい。
ブログというツールを見つけたら、その効能にはまってしまった。
日常で文章を書くということはあまりない。
ブログで文章を書くと、見慣れた私の文字が一瞬で活字になり、世界中の人々に私の今の思いが伝わる。
ネットの世界は怖いものとばかり思っていたけれど、使い方さえ誤らなければ、得るものは大きい。
見知らぬ誰かが私のブログを見て、その人に何かしらの感情が生まれる。かもしれない。
それはあまりに神秘的で宇宙的でもある。
私はその世界にすっかり魅了されてしまった。
自分の気持ちを知られるのは怖いこともあるけれど、その時々に湧き起こる感情をブログに乗せて。
私はブログを書く。
そこから何かが始まるような気がして。
年賀状をまだ書いていない。
このところ病院ばかりで忙しかった。
精神科、歯医者、皮膚科、また歯医者と様々なところに顔を出した。
最近は、市販のイラスト付きの年賀状に感謝の言葉を数行したためて送るだけになってしまっている。
以前は、水彩色鉛筆で簡単なイラストを描いて、言葉を添えて送っていた。
一年の掃除を終えて、相手を思い浮かべながら年賀状を描いている時は、とても充実した素敵な時間だった。
この数年間は怒涛のようで……。
年賀状をゆっくり描く余裕もなかった。
先生とケンカしたり(笑)
和解した先生のところにまた行けるようになったり、最近はいろいろと落ち着いてきた。随分動けるようにもなった。
来年はまた、ゆっくり紙を選ぶところから始めて、お世話になった人、一人一人に年賀状を描くという時間を大切にしたい。
そして、そんな時間を持てるということがとても幸せなことなのだと、今は実感している。
「それは私は約束したことは守りますよ」
「先生、イヤなんですか?!」
私はせっかく3連続で病院にきたのに、先生が大した反応もしてくれず、むしろ渋っているかのような態度でいることが少し不満だった。
「いや、イヤじゃありませんよ。私は全ての人に…………平等です」
そして、目を閉じてしばらく考えると、女性カウンセラーK先生の名前をあげた。
K先生。とても珍しくはじめて耳にする苗字だった。
先生が前から私にと考えてくれていた先生に違いなかった。まるで、今考えたばかりというポーズをとっているが。
何しろ私達の付き合いは7年にもおよぶ。先生のことはだいぶわかっているつもりだ。
「じゃ、良いお年を」
まだ12月9日だ。早すぎる。私が笑うと、アメリカ滞在が長かった先生は、
「Merry Christmas and Happy new year」
と言い換えた。
先生に英語で挨拶された。
私は、早い〜〜と言い、なんだか気恥ずかしくて長いこと顔を伏せていた。
「早かったですか。すみません」
そう言ってくれた先生に何もこたえることができなかった。
自宅に戻って、先生にメールを送った。
「今日はどうもありがとうございました。
Merry Christmas and Happy new year」
東京に行ってきた。
約1ヶ月ぶりである。
先生に呼ばれて診察室に入る。
「おや、この間見た顔が……」
相変わらずとぼけて先生が言う。
ふふん、これで2回連続だぜ。
「本気じゃないですか!」
もちろん本気だ。
私が目の前の椅子(先生と同じもの。ひじ掛けでローラー付きの立派なもの)に失礼します、と腰掛けると、先生と目があった。
「○○さん、近いです!」
私はびっくりして思わず左足で床を蹴って、椅子を後ろに滑らせた。
治療者と患者にはある程度、距離が必要なのだろう。
「1メートルくらい?……」
私が腕を広げて距離を測ろうとしていると、また声がとんだ。
「近いです!」
私はまたびっくりして、さっきより強く床を蹴って後ろに下がった。
「近況は?」
何事もなかったようにパソコンに向かって、先生が聞く。
「近況は……
先生、暑い!」
部屋が暑くて、思わず声をあげた。
先生が立ち上がって受け付けに言いに
行ってくれたようだ。
戻ってきた先生に
「他の患者さんは寒いかも……」
と自信無げに言うと、
「他の患者さんも暑いって言ってます。ほら、私なんか半袖ですよ!」
見ると、先生はシャツ一枚で袖を肘の上までまくり上げていた。
外は寒いがこの部屋は熱帯だ。
「あと一回きたらカウンセリング」
先生がパソコンに打ち込んでいる。
「先生。私、カウンセリング怖い」
「大丈夫です。怖くないです」
いつになく優しく言う先生。
なんだかよけいに怖い。
東京に行ってきた。7年ほど前からお世話になっている精神科の先生に会うためだ。今は、近くにあるからという理由だけで、近所の精神科に行っているが、こちらをやめて早く東京の先生のところに戻りたい。
近所の精神科にはもう10年ほどかかっているが、ちっとも良くなる兆しがない。先生も四人目だ。
鬱の治療になんでこんなに時間がかかるのか。
この10年、私には様々なことが襲いかかり、そして何も訪れなかった。
過酷な10年だった。
東京の先生に診てもらうためには、東京に行かなければならない。
これが私にとって最大のハードルだ。
バスや電車が怖い今の私にとって、東京に行く=ニューヨークに行く、に匹敵するくらい大変なことだからだ。
今回と前回は父の車に乗せて行ってもらった。これがまたキツい。
車に乗って首都高を行くのは、トイレがない、ということ。
安定剤を飲み、何事もないよう祈るのみ、だ。ここまでするのは、先生に課題を与えられているからだ。先生の病院に行くこと。それを月一回、3ヶ月続けられたらこちらに転院してよい、と。だから私は鼻息荒く頑張る。
先生は言う。
「今日は何しにいらっしゃった?」
ふん、とぼけて〜(笑)
私はあと一回だから続きで来ました、と答えた。
夏から下痢をしていたことを話す。先生はイリボーは良いと言う。
ラミクタールという薬をそちらで出してもらったら?と言い、私が持参したお薬手帳に、ラミクタールと書いてくれた。
ちなみに近所の先生は、東京の先生の存在を知らない。
他の病院で教えてもらった薬を出して下さいなんて……。
「言いにくいなぁ……」
と私が言うと、
「不意に閃いた、とかさ」先生は笑って言う。
「降りてきた、とか?」私。
「降りてきて、手が勝手に書いてました、とかさ」(笑)
そんなうまくいくもんかい!
そして最後にこう言う。
「じゃ、あと2回ね」
「ええっっ!!あと1回じゃ…」
夏場に行けなかったので、今まで行った3回は、リセットされてしまったのである。
くそ〜〜!!あの狸オヤジ、絶対また行ってやる〜〜(><)