東京に行ってきた。
約1ヶ月ぶりである。
先生に呼ばれて診察室に入る。
「おや、この間見た顔が……」
相変わらずとぼけて先生が言う。
ふふん、これで2回連続だぜ。
「本気じゃないですか!」
もちろん本気だ。
私が目の前の椅子(先生と同じもの。ひじ掛けでローラー付きの立派なもの)に失礼します、と腰掛けると、先生と目があった。
「○○さん、近いです!」
私はびっくりして思わず左足で床を蹴って、椅子を後ろに滑らせた。
治療者と患者にはある程度、距離が必要なのだろう。
「1メートルくらい?……」
私が腕を広げて距離を測ろうとしていると、また声がとんだ。
「近いです!」
私はまたびっくりして、さっきより強く床を蹴って後ろに下がった。
「近況は?」
何事もなかったようにパソコンに向かって、先生が聞く。
「近況は……
先生、暑い!」
部屋が暑くて、思わず声をあげた。
先生が立ち上がって受け付けに言いに
行ってくれたようだ。
戻ってきた先生に
「他の患者さんは寒いかも……」
と自信無げに言うと、
「他の患者さんも暑いって言ってます。ほら、私なんか半袖ですよ!」
見ると、先生はシャツ一枚で袖を肘の上までまくり上げていた。
外は寒いがこの部屋は熱帯だ。
「あと一回きたらカウンセリング」
先生がパソコンに打ち込んでいる。
「先生。私、カウンセリング怖い」
「大丈夫です。怖くないです」
いつになく優しく言う先生。
なんだかよけいに怖い。