不意に。
こんなことを思い出した。
今から40年近く前。
昭和50年代のことである。
私は小学生であった。
新年度も始まり、クラスも落ちついていた頃。
転校生がやってきた。
小柄な私より、もっと小柄な、目のくりくりしたショートヘアの女の子。
私達小学生にとって、転校生は珍しかった。
母と駅前に買い物に行った帰り道、その子に会った。
ある工業メーカーの、男性独身寮の敷地内にその子はいた。
その会社の寮の敷地はとても広かった。
建物も大きく、立派だったが、そのわりに人を見かけることがなかった。
いつも通る度、いったいここには、どんな人達が住んでいるのだろう、と想像を膨らませた。
中はどうなってるの?
どんな物を作っている会社なの?
独身寮って、それぞれの部屋になってるの?
大規模でふだんは人気がない、会社の独身寮とやらが、子どもには気になって仕方ない。
興味津々だが、それを知っている人にさえ、会ったことがない。
それが、私のクラスの転校生、という形で、急に私の前に現れた。
鉄柵の向こうの彼女は、快活で、なんでもよくしゃべった。
母の弟、つまり叔父がこの寮に住んでいること。
母親と一緒に叔父の所に来ていること。
私は、少し不思議に思った。
独身寮に住む叔父の所に、身を寄せているなんて。
なんだか、地に足が付いてない気がした。
私の母は先に帰ってしまっていたようだ。
鉄柵に掴まりながら、私達はしばらく話した。
彼女は、これからお風呂だ、という。
夕方のまだ早い時間だった。
そのことをよく覚えているのは、後ろから、若い男性が声をかけてきたから、だったか。
彼女がそう言ったからなのか。
そこはあやふやだ。
どっちにしろ、彼女はこれからお風呂に入るのだ。
ここでは、彼女は男性達に混じって、毎日、お風呂に入っているそうだ。
私は驚いた。
小学低学年だったが、私は知らない男性とお風呂に入ったことはなかった。
随分あっけらかんとしてるんだな、という思いと、周りは何も言わないのかな、という疑問と。
赤くなってきた空と共に強烈に覚えている。
彼女にまるで抵抗はないようだった。
それから数日経ったある日。
夕方、クラスの連絡網で電話がきた。
彼女とうちのクラスの女子、二人。が行方不明になっている。誰か知りませんか?
というものだった。
もう一人の女子というのは、クラスでも、あまり目立つような子ではなかったように思う。
特に仲が良い、というわけでもなかった。
同級生が二人、行方不明。
小学生には大きな出来事だったが、あっさり解決した。
彼女のおばあさんの家があるという東北に、二人で向かったという。
小学生が一人で行ける距離ではない。
彼女は何を思って、クラスメイトを誘ったんだろう。
それきり学校に出てくることなく、彼女はまた転校して行った。
転校してきてから、一週間のことだった。
あけっぴろげで、あっけらかんとして、身軽で。
不思議な子だった。
風の又三郎のようだった。
昨日出かけた後、しばらくぶりに彼女のことを思い出した。
ある会社の社員寮を見かけたせいかもしれない。
あの日の夕焼け空は、まだ私の中に残っていた。