退院してから、豆人間になった。
筆まめ、まめな人。のマメではない。
煮豆、小豆、大豆、の豆である。
入院前は豆類が好きではなかった。
納豆と豆腐をたまに。
味噌汁は好きだが、自分ではあまり作らない。
インスタントの味噌汁なら、けっこう飲む。
という程度。
子供の頃から和菓子は好きではなく、和菓子には必ず入っているあんこは大の苦手。
豆類、芋、かぼちゃ、といった昔から女子が好むような、ねっとりして、舌にざらっと残るものは、私の食感的によろしくない。
ましてや、それに砂糖が加わり、甘ったるくしたものなんて。豆が甘いなんて!
欧米人の、照り焼き。
なんで肉が甘いんだ!ぐらい理解出来ない。
体にやさしいのは、わかっているけれど、体が欲っさない。
ねっとりして甘ったるくてざらざらして。
どこが美味しいんだろう。
昔昔から、日本人が好み、受け継いできたあんこの良さがわからない。
私は日本人なのだろうか。
チョコレートが好きで、いつも食べていたが、もし私が、まだチョコレートが存在しなかった頃の日本人だったら。
私はあんこ好きになっていたのだろうか。
よく、こんな問いかけを自分にしていた。
入院中、朝食に納豆が出ることが、ちょいちょいあった。
納豆なら食べられるが、家ではあまり食べない。
しかも、朝から納豆なんて。
私は、朝はパン派なのだ。
なぜ、寝起きに納豆……
朝、起きるのが苦手で、さぁ、コーヒーでも飲もう!と思って、やっと起き上がるのに、病院では朝、納豆が待っているのだ。
朝からテンションが下がる⤵⤵⤵
しかし。
何度か朝食が納豆、ということが続くと。
不思議なことに体が、朝、納豆。ということに馴染んでいくのである。
むしろ、朝、納豆。が美味しい。
納豆が朝出ることが、楽しみにすらなってきた。
そんな入院生活を送って、1ヶ月半。
退院して気付く。
豆が食べたい。
え?私が?
そして、近所のスーパーで「おはぎ」を買ってきた。
手作りらしく大きめで、もっちりして、紫がかった美しい餡は、潰された小豆すら、いとおしい。
そして、ゆっくり、口にする。
餡は口の中で、すうっとほどけ、さらさらと溶けてゆく。
私はうっとりした。
なんだろう。この肩口から身体中に美味しさが染み込んでゆく感じは。
この至福感は期待以上だ。
あぁ、なんで私は今まで、こんな美しい小豆の美味しさに気付かなかったのだろう。
しばしの至福の時を味わって、私はやっと、やっぱり私も日本人なんだなぁ、としみじみ思った。
今まで、こんな美味しいものがあることに気付きもせず、見向きもしなかったなんて……
あぁ、美味しい。
そして今や、我が家には、あんこが欠かせず、冷凍庫に鯛焼き、冷蔵庫に水羊羹。がスタンバイ中である。
あんこ万歳。